大阪・北新地にあるレストラン「kitashinchi U」。
なかなか尖った料理を作るシェフが北新地にいる。
最初にオーナーシェフである田中悠介氏の料理を食べてそう思った。
砂糖はほぼ使わず素材から甘味を引き出し、塩味に至っても素材の味わいが消えない程度のギリギリの量で寸止めされている。
濃くてバシッと決まる味は確かに旨い。だがコースだと食べ疲れてしまうし、どうしてもワインは脇役となってしまう。
だがシェフの料理は素材同士の掛け合わせとペアリングで共されるお酒ではじめて五味と香りが補完される構成となっている。
テーマは「香りと余韻」。私が食で最も重要視していることだ。
料理はフランス料理の技法を使ってはいるが特にこだわっているわけではない。フランス料理、日本料理、中華料理問わず様々な飲食店で味わった食体験とその料理の構成を分解して再構築するなど研究を重ねオリジナルの一皿に仕上げている。
シェフの修行先は意外にもコテコテのクラシックなフランス料理だったそうだ。いまはまるで真逆のアプローチで攻めているから皮肉だ。
肉料理も最後ではなくあえて中盤に出すおかげでコースを通しても重たさがなくスッキリと終えることができる。
食感、温度、香り、味わいが複雑に交差し、時にマニアックな野菜も華を添える。
北新地に出店して一年。確かに食べ手を選ぶかもしれないがこれからも尖った料理を出し続けて欲しい。食に理解が深い人ならきっと刺さる人はいるはずだ。
2024年9月訪問
おまかせコース 19,800円(税込)+ペアリング 16,500円(税込)。サービス料はなし。
・マカロン
中にはチャボガヤ、ジン、柚子のシロップで味付けしたフォアグラのテリーヌとキャラメリゼしたイチジクのソース。
これをウェルカムドリンクのチャボガヤのジントニックで合わせるのが面白い。
・車海老のショーフロワ
ショーフロワとは、火を通した食材を冷やし、ゼラチンを加えた固まるソースで美しくコーティングした宴会用の料理。
今回は黄ニラのソース、山椒の香りのする姫レモンの皮を用い、上にはニラの花、レモンのオイルをかけて。
車海老の力強い旨味にコクのある黄ニラのソース、爽やかな香り。
これに合わせるのはアルザスのリースリング。酸味とまろやかなソースと相性ばっちし。
・名古屋フグ
ハーブのオイルを練り込んで軽く炭火焼き、上にはバジルと発酵させたトマトの泡、下はレモングラスの香りをつけたホエイ。
ちなみに「名古屋フグ」の由来は、内蔵・皮に強い毒を持つことからかつては食中毒も多く、それで当たれば身の終わり(美濃・尾張)となることから名古屋フグ(ナゴヤフグ)となったと言われている。へぇ。
・渡り蟹と南瓜のフラン
フランはこちらの定番メニュー。今回は明石の渡り蟹と南瓜を使ったフラン。
南瓜のナチュラルな甘味と渡り蟹の香り、そして真ん中の黒ニンニクがアクセント。
・鹿のコンソメ
2週間かけてじっくりと作り上げたコンソメ。綺麗な味わいでほのかな野生味を感じられます。
・夏鹿と松茸
ソテーした松茸と夏鹿。
ほのかに野性味感じられる鹿肉とナチュールワインを一緒に口に含み、はじめて完成するイメージ。
この店ではコースの最後に肉料理を出すのではなく食べ疲れ防止のためコースの中盤で肉料理を出している。
・ズッキーニと鱧
すり身にした鱧をズッキーニで包み、コンテチーズを加えた一品。
雲丹と胡麻のムースに赤みそのパウダー。
ホロホロの鱧と瑞々しいズッキーニをフライで閉じ込めて。
・新子のアオリイカのロースト
中にヤギとシャンピニオンデュクセルを詰めて。ブールブランソース、カンボジアの黒コショウ、宿儺南瓜のチュイル。
まろやかさとコクと酸味と黒コショウの香りを上手く散らして一皿に。
・セトダイ
炭を練りこんでフリットにしたセトダイ。
上にはサワークリーム、山桃のピクルス、茗荷のピクルスを和え、南蛮漬けのようなニュアンスで酸味を。下は根セロリのピューレ。
フワフワのセトダイの優しい旨味が印象的。
・リゾット
毎回最後はお米料理を出すのが定番らしく本日は干し鰯の出汁、筍、タイラギ貝、牛乳、シェーブルチーズを使ったリゾット。
炭火でじっくりと火入れした筍、タイラギ貝の磯の香りと食感コントラストが秀逸。
ここにマグロ節と白ワインで味付けされたイクラをかけて。
・玉露のブランマンジェ
スライスしたマスカット、牛乳と玉露の香りをつけたソース、やまととうきのオイル。
・アルコールペアリング
料理とアルコール双方が揃って完成する香りと余韻の世界。一口目より二口目、二口目よりも三口目と徐々に余韻が膨らんでいく魅力がある。
お会計は36,300円。北新地にできた秀逸なレストランだと思います。ごちそうさまでした。
コメント