参宮橋駅より徒歩6分。初台駅からも近い静かな高級住宅街の中にレストランはポツンと佇んでいる。
ここが、来栖けい氏のレストラン「ボニュ」。
新橋の宝くじ売り場で10枚の宝くじを購入し2億円当選。それから二万軒ものお店を食べ歩き食を極めた美食の王様、来栖けいさん。
自分なりにデータを収集し飲食店評論を行っていたが29、30歳位の時にすっかり食べる事に興味がなくなってしまい食べ手を卒業。2015年に「Bon.nu」をオープンさせ、今度は伝える側にまわったかなり特殊な経歴の方。
ちなみにワインメニューはなく金額に応じて選択するシステム。
「美味しいものは素材を足し込めばいくらでも美味しくなる。美味しいのは当たり前でそれは最低限の話。足せば料理は美味しくなるけど素材のもつ魅力は半減してしまう。うちの優先順位は素材を調理によって引き立たせること。」自身のレストランをそう語る来栖氏。
なるほど、他のレストランとすでに見ている方向性が既に違うようだ。
実際にボニュの料理を食べて思ったのが素材が時には姿形を変えてその素材以上の香り、味わいを発揮しているということ。かつて誰もやっていないポテンシャルの引き出し方に興奮がとまらない。以下、いただいた料理。
見島牛のビーフジャーキー
柔らかくも香ばしい天然記念物の見島牛のビーフジャーキーがアミューズ。この見島牛については後ほど。
自然〜太陽・空・土・草〜
動物性は使わず野菜系のみで作られた前菜は「自然」を表現。まったりもったりなマイルディな卵黄ソースを絡めてワシワシっと。
パン
香ばしいトースト。朝食みたい。
ブルターニュ地方のオマール海老
ここからすぐに調理されます。
抽出〜オマールエビ〜
オマール、水、塩のみで短時間で作られたスープ。乳製品は不使用で重たさがなく、香りは際立つが水の様にスッと余韻は消えていく。
姿は見えないが海老味噌の香ばしさ、身の旨味が全部詰まっている素材が持つ一番いい部分だけを抽出した究極的にピュアなスープ。
シンプル〜椎茸〜
水、塩、米油のみで作られたリゾットは米の味がしっかりとする。
他の出汁は使用せず水と椎茸で出汁をとっている。単一の料理だと確かにオリーブオイルは邪魔になりそうだ。徹底して椎茸を活かす事に注力されている。
リゾットだけどまるで椎茸を食べているような感覚。
トマト畑〜トマト〜
青いソースを混ぜ混ぜすることで完成する料理。食べてみると色濃いトマトの香り…というかトマトやんけ。
この青いソースはトマトのヘタで作ったソースでパスタを食べてるのにまるでトマト畑でトマトを食べているかの様な鮮烈な香りがする…レストランの方向性が非常にわかりやすいですね。
鮎
次の料理に使われる鮎たち。
銅焼〜鮎〜
鮎は火が入りすぎるのを防ぐため、焼くのは上の面のみで裏はほぼ焼かない。9.5:0.5の割合。
強烈な香ばしい香りに苦味を感じたあと、直ぐに物凄い甘みを感じる。この感覚は天ぷらの「にい留」で体験したものと似ている。
鮎のもつ内臓の苦味、甘味、香ばしさと魅力の全てを表現しきっている。
ボニュ焼き〜天然記念物・見島去勢牛(サーロイン)〜
日本で純血の和牛は見島牛、口之島牛、竹の谷蔓牛の3種類のみ。このレストランではこれらかハーフ牛いずれかを扱う。今回は見島牛の子孫を残す事ができないと判断された雄の去勢牛。
表面は物凄い香ばしく、断面は均一に火が入っており、切っても肉汁はでないが噛めばジュワっと旨味共に溢れ出る。6時間かけて休ませながら焼くこれがボニュ焼きである。
炭焼〜大鰻〜
身はコンフィ、皮は炭火。これらを同時に行う事で成せる旨味を閉じ込めた力強い身の食感と旨味、そして炭火の香り。特に身は火入れにより詰まってる感じがないのがすごい。鰻を5分という短時間で焼くからこその仕上がりだそうだ。
ちなみにソースは骨で取ったもので風味付け程度。
ボニュ焼き〜天然記念物・見島去勢牛(ウチモモ)〜
赤身のウチモモはソースで。こちらも牛の出汁、赤ワイン、水のみで仕上げたもの。牛肉の旨味が強いため、ソースはバランスを考えてアッサリと。
ボニュ〜ミルク〜
生クリーム不使用の澄んだミルクはまるで母乳?笑
ナチュラル〜神果卵〜
卵の比率は全くいじくらず、卵白のコシはありながらも卵のミルクとコクと滑らかさも共存させた懐かしくもエレガントさのあるプリン。
水とカカオで作ったチョコレート
融点はめちゃ低く、手で持ったら溶けてしまうくらい。クリアでピュアなカカオの風味。
お会計は一人68,000円。ワイン、個室料でまぁまぁな値段。
ここでは単一の素材だけで出汁を取るもんだから下手したら鰹出汁や昆布出汁を使う日本料理よりも引き算の料理なのかもしれない。
強運な運気と強靭な胃袋と英明な分析力を持つ来栖氏だからできる唯一無二のレストラン。
是非また季節を変えて来たい。ごちそうさまでした。
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