日本の四川料理の第一人者「飄香」グループの総料理長である井桁良樹さんがこれまで培った経験と技術の全てを昇華させた新たなお店。オープンは2022年。
場所は広尾駅より徒歩5分ほど。
14品からなるシェフのおまかせコースは24,200円。こちらに15,000円のベアリングコースをつけて。
店名に「香」とある様にどの料理も香りが印象的だ。四川料理は辛いものばかりかと思われるが実は八割が家庭で食べられる素朴な郷土料理である。所々に多種多様なスパイスを効かせ、あくまでコースに緩急をつける役割だ。
伝統的な四川料理がベースだが現代的なアプローチで仕上げる無化調料理はかなり独創性に満ちている。
シェフの仕事は緻密で食感、香り、味わいを巧みに散らし最後まで飽させない手腕とそのバランスが秀逸だ。
一皿一皿にストーリー性があり、時には料理を竹、弦楽器、キノコに見立てたパンまでもまるでアート作品のようである。これが美しくて見事としか言いようがない。
ペアリングはシャンパン、ワイン、紹興酒などでこれがまぁまぁな種類出てくる。
こんなに凄いのに何故かまだあまり知られていないようだ。
以下、いただいた料理。
1.芙蓉(ふよう)
成都市の花である「芙蓉」をイメージした料理。上は豆乳のムース、下が白花豆と自家製干し肉などが。軽やかなムースに濃厚な旨味の白花豆アイス、そして揚げ菓子のサンズと温度や食感のバランスに優れたアミューズ。
2.竹韻
「竹の節」に見立てた中国パイ。間にフォアグラを挟み、笹に見立てた「らっきょうのピクルス」は食感と味わいもアクセントとなる。甜麵醬と唐辛子ジャムで味付け。上は竹葉青のパウダーを。
3.琵琶
弦楽器「琵琶」に見立てた一品。弦に見立てたのはハーブのロックチャイブでにんにくっぽい香りを。
泡菜という乳酸発酵の漬物液で一日以上マリネすることで味わい、濃縮感、ねっとりとした食感をもたせて海老の甘味を引き立たせる。下には刻んだ野菜のピクルス、もち麦。
上の白いシートは乳化させたソースを固めたもの。海老の旨味甘味と乳酸菌による優しい酸味が特徴。
4.飄雪
茅台酒で漬けた高麗人参で作った泡、シトロンキャビア(フィンガーライム)、モウカザメのフカヒレ、自然薯、葱と山椒の椒麻ソース。
5.柳緑
紹興酒でマリネした青森県産の馬刺しはねっとりと。上は赤身、下はサシが入った部位でそれぞれ味わいが異なる。
オクラとレモンバームを乾燥させたパウダーが馬刺しの水分に吸着し、最後のレモンバームの香りが爽やかだ。刻んだピスタチオ、下の辣油や香ばしい唐辛子の香りも食べながらにして食欲を沸かせる。
6.文明
世界四大文明の一つである中国文明にかかわっていたとされる少数民族「イ族」。いまも標高の高い所で生活をしているが、こちらはそんな彼らが食べている韃靼そば粉をクレープ生地にした料理。
燻製にした鴨の干し肉、安納芋に黒砂糖をまぶしキャラメリゼ、生姜のピクルス、果物のジャム。
クレープに包まれる一体感と口内調理を楽しむ。相変わらず味わい、食感、香りのバランスが秀逸だ。
7.孔明
もちろんタイトルは諸葛孔明から。蕪の様な野菜を色んな場所に植えさせて食糧の糧としていたことからその蕪を京都の聖護院蕪に見立てて作ったツバメの巣仕立てのスープ料理。
鼈と冠地どりの清湯スープと茶わん蒸し。旨味の層が厚い出汁がいい。
8.貴妃
シルクロードを通じてワインを飲んでいたという説がある楊貴妃。おそらくワイン発祥のオレンジワインを飲んでいたであろうというシェフの考察のもと、オレンジワインで煮込んだ鮑の料理。
鶏、豚、鴨、金華ハムなどに鮫の軟骨を加えてコラーゲンを出したソースの煮込み。グリーンのパウダーはカラシナという葉物。
ジャスミンライスを投入するとまた香りが広がります。
9.祥雲
蓮根の間に帆立のすり身と白子を挟んで薄い衣でサクッと揚げた料理。上は鱈で作ったでんぶ。
焦がし唐辛子が香る甘酢ソースと上のでんぷと合わせば色んな複雑な味わいとなる。
10.隨園
随園食単という古い書物並みに古典料理をということで国産海鼠と豚の脛肉の煮込み。
干したムール貝を包むマンガリッツァ豚のミンチ。
ソースは豚肉とムール貝を煮詰めた古典的なソース。この旨味たっぷりなソースに蒸しパンをつけて。
本物の椎茸の中に蒸しパンが隠れています。
原木椎茸をパウダーにして練りこんでるのでちゃんと椎茸の味もする。
11.張飛
「三国志」の張飛の荒々しいイメージを表現した牛肉の一皿。数々の香辛料の複雑な味が加わった上で美味しさが引き立つ牛肉はあえてサシの少ない短角牛のトモサンカクを。
付け合わせには牛のアキレス腱とハチノスをビーツと牛蒡、スパイス、唐辛子、山椒を合わせた刺激的なソース。
甜焼白
豚バラ肉と小豆の餡、もち米を重ね蒸した、甘い豚肉料理。これがのちに姿を変えて出てくる。
12.墨花
烏賊墨の和え麵。烏賊墨、発酵トマト、唐辛子の旨味と酸味と辛味のある和え麺。
13.飄零
あんぽ柿のシャーベット、塩気のある蓮の実のピュレ、白キクラゲ、晩白柚。相当濃厚だけど酸味と中国テイストの蓮の実も。
14.喜筵
さきほどの甜焼白を応用したデザート。まわりはココナッツのパウダー、小豆の餡子、黒胡麻。さらにココナッツ風味のマシュマロを表面に乗せ炙って甜焼白との一体感をはかった。小豆、モチ米、ココナッツと日本人にも馴染み深い味。
約40,000円。
歴史ある四川の名菜をベースに、培ってきた経験や技術、中国の史実や文化にも思いをはせ「今の時代に“新・名菜”を作り出すなら?」という視点から生まれる独創性豊かな料理の数々。
まるで一本の長い映画を観たあとの余韻に浸れる素敵なレストランでした。ごちそうさまでした。
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