東京・早稲田にある中華料理店「旧雨」。
シェフの前田克紀氏は高級営養薬膳師の資格を持ち、中国伝統医学に基づいた体に優しい薬膳料理を提供。
東京で薬膳中華を出すいま話題のお店です。
【旧雨】はどんな店?
店名の由来は唐代の詩人・杜甫(とほ)の「秋述」の一節「舊雨(きゅうう)」から。
この散文は、病床に伏せる杜甫が友人の来訪を待つ気持ちを綴ったもの。
雨(YU)と友(YOU)は発音が似ることから掛詞となり、舊雨(旧雨)は昔の友人を意味する。
簡単に言えば、「昔からの友人(旧友)」とかけており、訪れる人々に親しみやすい雰囲気を提供しています。
店内はモダンであり、どこか暖かさがある。
コースは9,500円税込一本。追加メニューもたくさんあります。
料理には漢方薬を入れるというわけではなく、素材同士の組合せで薬膳を取り入れます。
場所は早稲田駅から徒歩5分ほど。早稲田と言えば「焼鳥 はちまん」や家系ラーメンの「武道家」本店があるエリアですね。
前田克紀さん
「古月」で12年修業し、35歳で「古月 新宿」を引き継ぎオーナーシェフへ。
高級営養薬膳師の資格を持ち、中国の伝統的な医学=中医学の基本理念に則った料理方法で9品前後のおまかせコースを楽しませている。
「冬の薬膳料理」2025年2月訪問
まったく、素晴らしい料理をいただいた。
薬膳中華というと少しばかり足が遠のいてしまいがちだが全くの杞憂だった。
スープは日本料理のお椀を彷彿とさせる。塩をほとんど使わずに素材の持つ旨味を抽出していく。
一口目はどこか物足りなさを感じさせる。だが二口、三口と飲み進めていけばだんだんと素材の持つ旨味が膨らんでいき、味蕾に染み込んでいく。
スープを飲み終えた頃にようやく味わいが完成するかのようだ。日本料理だとか中華料理だとかジャンル分けがバカらしくなってくる。まさに「癒される料理」だ。
・ラムと蓮根のとろろ煮
ラム煮に蓮根、煮汁をすりおろした山芋でトロみをつけている。この山芋にラムの旨味が染み込んでいる。
上のニラの花の塩漬けがアクセントに。
・うすばはぎの膾(なます)
生食を和えた料理を「膾」といい、今回は「うすばはぎ」の膾。クラゲ、ザクロなどと。
このタレが旨くて、普通の醤油で食べるよりはるかに旨い。クラゲとうすばはぎの食感の妙。
・百合根とうるいの卵炒め しらうお餡
甘酢でうらうおソースを作り、うるい、蕗の薹、うるいの卵炒め。
甘酢と蕗の薹の苦味もバランスがいいです。
・冬の薬膳スープ
栗・ラズベリー・黒胡麻・大根・牛すね肉の養生スープ。
一口目は物足りない。二口目、三口目とだんだん素材の輪郭が姿を現す。最後の一口で全てが完成する。まるでお椀のようだ。
・たけのこあさり
あさり出汁で炊いたタケノコ。少しピリ辛。
・菜の花の水餃子
菜の花を乾煎りすることで香りと辛さを引き立てる。まさにカラシのようなニュアンスに。
まさに菜の花を活かした餃子だ。
・皮付き豚バラ肉の煮込み 紅麹風味
追加: 小籠包(1個)¥350、ほうれんそうのヴィーガン焼売 (1個) ¥350
普通の小籠包は肉の味がダイレクトです。ほうれんそうは香り高く、甘さを感じます。
追加: えびとにらの蒸し餃子(1個)¥450、甜麵醬味の肉まん ¥350
追加: ふかひれの煮込み(150g)¥12,000-
魚、鶏、豚スープを煮込み、最後に海苔を入れたもの。
塩味のフカヒレってはじめてだ。海苔の香りが全体を調和し、後味も軽いのが素敵。
フカヒレってどこも味付けが似通ってるけどこれは唯一無二。ここに来たら絶対頼みたい一品です。
追加: ほたてと黄にらの春巻(1個)¥350-
いい油な証拠だ。香りがいい。黄ニラの香りもいい。ホタテも甘い。
追加: 麻辣豆腐とご飯¥2,200-
一口目より、二口目。二口目より三口目の方が旨い。
肉の味が濃い。これは肉料理だ。こんなに牛肉の味がする麻婆豆腐は初めてだ。
・紅花麺
イメージはブイヤベース。甲殻の香りがあって、酸味もあってコクがあって。
麺がまたうどんのようなフワッとして、グッと芯がある。まさにコシである。
・デザート
ココナッツミルクプリンとマンゴーと金柑のソース。デザートは奥様が作られてるそうです。
本日のお酒
お会計な一人約20,000円。静けさと滋味に満ちた料理の数々。食材の持つ力を丁寧に引き出し、季節に寄り添う滋味あふれる中華は、体に優しく、食後に深い安堵感を残す。
薬膳=健康志向の堅苦しい料理、という先入観を軽やかに裏切るその一皿は、化調を使い「一口目から旨い」が飽和したまさに新時代の薬膳中華。ごちそうさまでした。
「梅雨の薬膳料理」2025年6月訪問
塩は味をつけるものではない。素材の輪郭を浮かび上がらせるものだ。
改めて前田シェフのスープを飲んでそう思った。
もちろん全ての料理がそうではなく、しっかりと着地は「美味しい」となっている。
梅雨は大地に雨を降らし草木が育つ時期ではあるが人間にとってはジメジメして不快極まりない季節でもある。
薬膳的な考えでは梅雨時期は「湿邪(しつじゃ)」といって身体に余分な「水分や水毒」がたまることで起こる病理的な邪気(病気の原因)のひとつ。
湿邪は冷えや消化機能の低下と結びつきやすく、放っておくと「痰飲」「むくみ」「だるさ」「下痢」などさまざまな不調を招く。
そこで「利湿」と言って、体内にたまった余分な「湿(水毒)」を取り除き、正常な水分代謝を促す考えでコースでは利尿作用がある「瓜」を多用。
また冬の薬膳コースとは全くアプローチが異なる世界が展開された。
鯉は湿気を逃してくれる効能があり、梅雨の時期にピッタリな食材。
豆板醤ベースで煮込んでからほぐしてパンに乗せて。ミントやシソの香りなど様々な香りを楽しめる。
中国産の鳩を烏龍茶の漬け汁で煮込み、じっくり揚げた料理。付け合わせはトマトとアメリカンチェリー。
味わっていくと鳩の旨味と烏龍茶の香りがなんとも言えない魅力。
この怪味ソースがまた素晴らしい。中毒的旨さです。
甘いスナップエンドウ、トロトロの茄子、板春雨の食感の妙にパクチーの香り。
さて、スペシャリテのスープは相変わらず味がない笑
いや、あるんですよ。塩はほぼ使っておりません。素材の存在感を少しハッキリさせるレベル。
ほとんど瓜のコースだ。
ヌルヌルっとした穴子は長物で昔から様々な効能を期待されていた食べ物。揚げて沙茶醤炒めに。
漬物にしたスイカの皮を刻み入れた小籠包。まさに肉料理と言わんばかりの肉の味の濃さ。
今回も追加しました。この塩味のソースに海苔という唯一無二の組み合わせが素晴らしすぎる。
ミルキーな孔子の旨味、生姜のシャープな辛さ。
小豆の粉を練り込んだ自家製麺。今回はだいぶ太くてモッチモチ。食感がまた独特です。
挽肉の味付けもしっかりと。胡瓜は食感と香りを活かすためあえてザックリと。
ココナッツプリンにスイカとトマトのシャーベット。はい、また瓜です。そしてスイカとココナッツの組合せも抜群です。
瓜類は約90%が水分を占め、体内の余分な熱を冷ましながら利尿を促してむくみを改善する働きがある。
さらに低カロリーかつ食物繊維が豊富で、満腹感を維持しながら腸を整え、ダイエットを後押しする。
ビタミンCやβ-カロテン、カリウムなどの抗酸化成分も含み、肌や血管の健康維持に貢献。
漢方的には寒性食材として夏バテやほてりを和らげる作用があり、独特の苦味成分は抗炎症や利胆作用を持ち、肝機能サポートにも一役買う。
これら薬膳の観点で各料理に落とし込んでいる。まったく、また他の季節に来たくなっちゃうじゃないか。
店舗情報
住所: 東京都新宿区西早稲田2-3-21
アクセス: 東京メトロ東西線「早稲田駅」から徒歩約5分(約390m)
予約方法: 予約は公式Instagram(@kyuuu_waseda)のダイレクトメッセージで受け付けています。
コメント