東京・浅草にある四川料理店「四川料理 巴蜀」。
福岡のグルメの間では知らないものはいない程のお店だった中華料理店。
2007年に福岡県東月隈で同店を開店し、2016年美野島に移転。
シェフの荻野亮平さんは、2024年よりトウガラシの研究をするため信州大学大学院へ入学。それによって2023年11月浅草へ移転。現在営業は月金の夜、土日の昼夜、祝日と限定的。
こちらが面白いのは1980〜2000年付近で提供されていた四川料理を再現していること。
「中国4000年の歴史と言われますが、いまに伝わる料理に関しては1900年前後に体系化されたと考えられます。ただ、その系譜は1966年からの文化大革命によって資料や本が廃棄されたことで一度途絶え、復調するのは80年代まで待たなければなりませんでした。四川料理に関しては、そこから西部大開発によって老舗料理店が軒並み閉店した2000年代初頭までが“黄金期”だとぼくはとらえています」
現地の料理をなるべくアレンジせず、「四川料理が最も四川料理らしかった1980〜2000年当時の料理を再現するよう心がけています。」
さて、この日は「食べ比べコース 22,000円」をオーダーした。
棒棒鶏、海老チリ、回鍋肉、東坡肉 、東坡魚、麻婆豆腐、担々麺の時代や地域別の贅沢な食べ比べコースである。
・前菜七品
プチトマトの甘酢漬け、カボチャと赤唐辛子の炒め物、エノキと自家製バーベキューソースの和え物、椎茸の醤油煮込み、キュウリの漬物、鶏レバーの紹興酒の粕漬け、ホタテの白糖生姜煮込み。
特に鶏レバーは旨味の塊。辛いカボチャも日本人にとっては新鮮です。
・棒棒鶏4種
左上:棒棒鶏は1930年頃に漢陽覇で生まれたと言われている。エッヂの効いた麻辣タイプ。
右上:1960年代に合州で細切りでゴマだれの棒棒鶏が流行。
このゴマだれタイプは日本でもお馴染みですね。
左下:1980年代に重慶のとあるレストランで郭沫若と言う作家が書いたエッセイの中に『今思い出しても涎が出る』と言うほど美味しいと言う意味で使った「口水鶏(よだれ鶏)」を開発。
いわゆるよだれ鶏のソースがかかったほぐし肉。当然美味すぎる。
右下:成都の味付けで1993年の廖記棒棒鶏と言うテイクアウトの店の塩味ベースを再現。
他のものに比べるとサッパリ味。
・干焼虾/干焼虾仁
上海風のケチャップと甘酒で味付けされた日本で馴染めのある甘辛スタイルです。
四川の方は殻付きで手作りの発酵唐辛子、漬物、豚ミンチを加えて山椒を効かせてある。
これが台湾ラーメンの味仙にも通ずる旨辛。
もしも陳建民がこっちを推してたらこっちが日本の中華店での海老チリだった。
・回鍋肉二種
皮付きの豚バラ肉、豆板醤、豆豉で味付け。
日本では甘辛な回鍋肉だけど、本場は塩気と辛味とコクが印象的。
スペアリブの方は骨付きで歯応えがしっかりして旨味が濃ゆい。大豆味噌の優しい旨味。これが1700年代から存在するのか。
・東坡肉二種
上海風は醤油、砂糖、紹興酒のみで煮込んで味付けしてある。
ザ・上海風の甘辛で濃厚な味付け。
四川風は豆鼓、発酵唐辛子、芽菜という四川の漬物、山椒の粒を炒めたもの。
こちらは複雑な味わいで辛味も痺れもしっかり。
・東坡魚
東坡肉の魚版で鯛を使ったもの。
ここに豚肉、発酵唐辛子、漬物で炒めたもの。
・麻婆豆腐二種
豆板醤、豚肉、花椒。この時代にはまだ中国に味の素が入ってない時代。
あっさりとして毎日でも食べたいマイルドなもの。
1960年代〜70年代の味付け。
牛肉が固定になり、豆板醤が抜けたころ。
1985年ごろにまた豆板醤が加わり、唐辛子、豆鼓、花椒の味付けになる。
ちなみに本に載っている調味料の組み合わせをそのまま作るというやり方なので、こちらには味の素を入れてます。
・坦坦麺3種類食べ比べ
20年前の担担麺。醤油と辣油のストレートな辛さの担担麺。ニンニク、唐辛子、挽肉とどこか味仙みたいな味付け。
次は80年前の担担麺。豆鼓の搾り汁で作ったもの。
シェフが留学中にとあるレストランで食べた担担麺。
汁は少しだけ、胡麻はなし、味付けは醤油と辣油のみ。どこか甲殻類の香り。
ナッツの飴がけ。
レストラン料理も大好きだが実は毎日食べられる料理は郷土料理だと思う。そう言う意味において、四川の人たちが毎日食べていた普段の料理を食べさせてくれる貴重なお店。
レストランとはただ美味しいものを食べるだけの場所ではない。歴史、文化を学ぶ場所でもある。ここではイノベーティブ的なオリジナリティあふれる料理は出てこない。その代わり、荻野シェフは正しい、本物の料理を再現することにこだわっている。
ここに来ればいつでも過去の中華料理がいただける。まさにデロリアンみたいなレストランだ。ごちそうさまでした。
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