東京・西麻布にある河豚屋「とく山」。
六本木駅からも広尾駅からも徒歩10分ほどかかる。
創業は1978年。店名は「徳のある方が山ほど集まるお店になるように」との願いが込められている。果たして僕は徳があるのだろうか。
料理長の伊藤博尚さんは同店で20年以上働く大ベテランです。
さて、本日の河豚は大分の豊後水道の天然河豚である。いまは11月の中旬。本格的に河豚のスタートの時期である。
煮凝りは二切れ。河豚皮からでるコラーゲンを固めた食べ物だ。
一つはすぐにパクッとゼラチンを感じながらいただく。ぷるっぷるの食感で口内の温度で溶けていくのを楽しむ。
河豚の皮から溶け出した天然のゼラチンが口内に広がる。
そしてもう一つは少し置いてやや溶けかかった頃合を見計らってパクッと。トロッと滑らかな食感の違いとコラーゲンを感じる。
てっさ。なんで「てっさ」なのかと言うと、関西では「当たると死ぬ」という意味から「てっぽう」にちなんで、ふぐ刺しのことを「てっさ」と呼ぶようになった。
しかし、とく山のてっさはこの分厚いカットが特徴だ。透き通っているが薄らとピンクがかっている。
超キン肉マンな身はなによりも天然の証拠。
この弾力を楽しむ。噛んでいくうちに徐々に甘味や味が開いていく。この「味を掴む」という感覚が何よりも河豚を堪能できるかのポイントになってくる。味が掴めない人は「ただ味のない白身」と河豚のことを罵る。酷いじゃないの。
この筋肉質な食感は鮮度に依存していない。この河豚もしっかり三、四日ほど寝かしてある。寝かさないと旨味はでないだ。
最初の一切れ目は「なんと淡白な味わいだ」と思うだろう。それでいいのだ。みんなそうだ。昼に家系ラーメンを食べた自分には到底淡白過ぎる。
二口目は思い切って二枚いってもいいかもしれない。すると噛む回数も増えてくる。噛むと唾液が出てくる。唾液と咀嚼した河豚が混じると遠くの方で旨味がゆっくりと泳いでこっちに向かってくるではないか!
あぁ、みえた!河豚様の旨味だ!
自家製のポン酢をたっぷりとつける。ポン酢は味が強いから河豚の味を消してしまうのではないですか?
いやいや、確かにポン酢単体は強いかもしれないが、河豚はキン肉マンで噛ませる魚だよ。
ポン酢はキリッとはしているがどこかまろやかだ。紅葉おろしのピリ辛も絶妙だ。
噛んでると最後に残るのはポン酢ではなく河豚の玄妙なる味わいと甘味だ。おぉ、ポン酢に河豚の身が勝つんだ。というかポン酢の爽やかな酸味と後に残る河豚の甘味が何とも言えない調和を生み出している…
河豚というのは脂肪分がほぼない。脂というのはわかりやすい旨味だ。脂味は厳密に言えば五味ではないが。
例えばトロにしても脂がのっていれば人は「旨い」と言う。だけどその人は本来の鮪の味とは違う脂で旨いと言っているのだ。
河豚には脂がなく、ダイレクトに旨味成分を感じることができる稀有な魚である。
だから鍋にしても変な脂が浮かんでこない。つまりクドさがなく永遠に食べられる。脂でごまかされない旨味成分をダイレクトに味わうことができるのも河豚の魅力だ。
ヒレ酒は店員さんがじゃぶじゃぶして炙ってくれる。さすが手慣れてらっしゃる。他では自分でやれる店もあるがこれがなかなか難しい。
いやぁ、旨い。
ここで白子を追加。まだ出始めの時期と言うこともあってサイズはご了承願いたい。
だがひたすらミルキーで濃厚の塊。余韻を孕んだ白子の旨味、たまらない。
鍋用のポン酢。
さて、河豚は鍋である。
豊後水道の河豚というのは特に火を入れると一気に味が出てくる。ほかの地域とはまるで違うんだ。
カマを直接ポン酢のお椀にジャブッと。
ここはお下品に手で持ってしゃぶりつこう。河豚を食べる時はカッコつけるな。
火を入れても尚筋肉質な身を楽しむ。このマッチョは果たして魚なのか?
ポン酢の酸味が河豚の味わいと甘味を引き立てる。
春菊の香りに魅せられ、旨味の白菜や椎茸、甘味や香りのある葱、出汁をまとった円やかな豆腐と火入れも抜群。
さて、雑炊である。
河豚の力が全て出た雑炊。脂はないので綺麗な旨味だけが滲み出ている。なんとクリアで深いのだろう。
先ほどのポン酢を少しづつかけて味変を。
さらに海苔をかけて香りを変えて。
甘味はなんと13種類のなかから選択できる。
お会計は一人約31,000円。
さぁて、今年も河豚の季節がやってきた。素晴らしき幕開けだった。ごちそうさまでした。
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