もちろん小林幸司シェフについては存じている。近年のテレビ番組での出来事も知っている。
でも僕はどうしても彼に会いたかった。「鬼才」と呼ばれる人の料理に触れたかったし、あの炎上騒動で一方的に批判の的になっていた構図に疑問を持ち、一人の人間としての小林さんに会ってみたかった。
そんな中、紹介制で予約のハードルが異常に高い軽井沢の「フォリオリーナ・デッラ・ポルタ・フォルトゥーナ」についに行けることになった。願いは叶ったのだ。長野の「すし崇」久保大将、お誘いあざす。
軽井沢駅よりタクシーで20分ほど走った山中にポツンと佇むイタリアンレストラン。
予約は一日一組のみしか受け付けていない。
上質な個室で、窓を見れば美しい軽井沢の自然を拝めることができる。
料理はなんと毎日異なり、同じ皿を作ることが二度とないという。
恐ろしいことに試作は一切しない。
業者にも食材の指定はせず、厳選された食材が送られてくる。食材は地産地消ではなく98%以上がイタリア・フランスからの空輸。
そこから奥様の葉子シェフが毎日のコースのテーマを決め、幸司シェフがレシピを考案する。
食材も知らなければ、テーマも自分が考えたものではない。そうするとできあがる料理は常に新鮮なものになる。「食材も自分で選んで、自分でテーマを決めるなんてのはつまらない」と語る小林シェフ。
レシピを作り終えたら、実際にお客に料理を作るのは葉子さんである。
だからサービスや説明はすべて小林シェフ。
頭の中で考案したものを奥様が具現化して料理を振る舞う。これ、やってる料理人はたぶんこの人たちだけだろう。
料理は一皿で満足してしまうような皿はつくらない。
何かが突出していて、何かが足りない。常にアンバランスを意識する。
コース全体を通してはじめて完成する「3Dの球体状のパズル」。
こちらも前情報にあったが、説明が恐ろしいくらい長い。もはや呪文である。しかも手の内を全て明かしてくれる。聞いても誰も真似できないって。
料理に限らず、一聞けば百返ってくる。これは常に四六時中思考を働かせている証だ。でなければこんなにスラスラ工程、物事を論理的に話すことは不可能だ。
レストラン慣れしてる僕でさえ正直気を抜けば置いてかれるプレゼンだ。
「フォリオリーナ」はイタリア語で「小さな葉」。
「ポルタ・フォルトゥーナ」は「幸せを司る」。
そうです、こちらのレストランは小林幸司シェフと奥様の小林葉子シェフ2人のレストラン。名前もお二人の名前を宿してます。
今回男4人で訪問したがみんなが料理好き。みんな興奮しながらこの空間に浸っている。
そもそも小林シェフは軽井沢の人ではない。ではなんで軽井沢に?と軽く聞いたらこれもとんでもない膨大なストーリーを語ってくれた。興味ある方は僕のYouTubeを是非。
とにかくに聞いたことに対してとてつもないほどの情熱とロジックが返ってくる。こちらもその説明に興奮してくる。こういう経験を待ってたんだ。
緻密に積み上げられた精巧な足し算料理。それはまるで建築物を思わせる。いやはや、この経験を持ち帰って酒を飲みたいくらいだ。
実際に小林シェフはとても穏やかで知性と品があり、とても優しかった。
あぁ、やっぱり人ってのは実際に会ってみないと分からないんだな。
お会計は一人約48,000円。
今回訪問した野郎4人は帰りのタクシーの中で興奮がおさまらなかった。
素晴らしいものを持ち帰りながら我々は非日常から日常へと戻っていったのでした。
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