七人もの人間が次々に殺されながら、一人の少女が警察に保護されるまで、その事件は闇の中に沈んでいた──。明るい人柄と巧みな弁舌で他人の家庭に入り込み、一家全員を監禁虐待によって奴隷同然にし、さらには恐怖感から家族同士を殺し合わせる。まさに鬼畜の所業を為した天才殺人鬼・松永太。人を喰らい続けた男の半生と戦慄すべき凶行の全貌を徹底取材。渾身の犯罪ノンフィクション。
残忍すぎて報道規制がかけられた事件
虐待は主に通電。
コードを身体に巻きつけ電気を一時間のうちに何度も流していくと皮膚が溶け出しやがて骨が見えた。
食事や排泄も制限され漏らしてしまった下痢便は食べさせられた。
しまいには家族同士を殺させ自ら解体させた。その中にはまだ赤子もいた…
2005年に娘の脱走により犯人が捕まった。
松永太、緒方純子の2名。
これを機に「日本史上最も残忍な事件」が明るみに出る。
当時あまりの残虐性の上、メディアは報道規制をかけた。
なので「こんな事件知らない」という人もたくさんいることだろう。
正直言うと私も知らなかった。
そりゃこんな残忍な事件の内容を朝のニュース番組で流したら日本全国からクレームものだ。
(実際クレームも来たらしい)
この本は作者の豊田正義氏が何度も裁判所に赴きこの事件を追った渾身のノンフィクションである。
概要
なんで私がこの本を手に取ったかというと新堂冬樹という大好きなミステリー作家の「殺し合う家族」という本を読んでこの事件を知ったのだ。
この本では北九州の事件をモデルにしてフィクションとして描かれている。
「殺し合う家族」を読んだ後に本書を読んだのだがフィクションとノンフィクションの違いはあれど本書の方が圧倒的に気分が悪くなった。
まさに現実が小説を超えた瞬間。
元々、新堂冬樹の描く残忍さ、グロテスクさが好きで彼の本は何冊も読んできたが本書のグロテスク性には全くもって敵わなかった。
それだけこの事件は衝撃的であった。
松永太は巧みな話術で相手を動かす能力に長けていた。
これはもう天性のものと言わざるを得ない。
要は人の心を掴むのがうまかったのだ。
そして彼の洗脳によって大勢の人が事件に巻き込まれることになる…
全ての発端は同級生である緒方純子に松永太が金銭目的で言い寄ったことから始まる。
(写真は松永太と緒方純子)
緒方純子の家はたいそう裕福であることを松永太は知っていたのだ。
そして二人が交際を始めてから松永太の暴力が始まり、徹底したDVによって緒方純子は完全に洗脳されてしまう。
その後、松永太が指示を出し緒方純子が実際に手を下すというパターンが形成される。
松永太は決して自分の手を汚さずに緒方純子を完全に操り人形にし、犯行に及ばせる。
さらに松永太は緒方純子の家族を巻き込み家族同士に殺し合いさせていくというまるで小説の様な事件を起こす。
一番怖いのが娘の命がけの脱走がなければこの事件は闇に埋もれていたということ。
それだけ松永太と緒方純子の犯行は完璧に隠蔽されていたのだ。
そして今でも被害者が出ていたかもしれない…
家族同士を殺させるほどのマインドコントロールとは?
緒方純子やその家族はなぜそんなに簡単に松永太に洗脳されてしまったのか?
いくら松永太が心理学に長けていたとはいえ、こうも簡単に人は奴隷となるのだろうか?
誰しもが疑問に思うことだろう。
松永太は人好きするタイプで感じがいい人を演じるのが上手かったようだ。
人はそれにすっかり騙されてしまう。
家族もだんだんと松永太に悩み事など相談するようになる。
そしてそれぞれの弱味を握ることで(時に弱みを握らせることも)徐々に家族を支配下に置いていく。
手っ取り早いのが家族間の絆を壊すこと。
信頼関係を徹底的に破壊することで家族同士の結束を阻止。
家族の中で順位付けをし、虐待が始まる。
基本的には身体中のありとあらゆる部分への通電。
陰部への通電も日常茶飯事。
あまりの激痛とショックにより思考が停止し、そうなると人は「逃げよう」とは考えなくなりひたすら「虐待されないように行動しよう」とマインドが変わっていく…らしい。
食事や排泄も制限されるようになり、もし漏らしでもしたら汚物を食わされる。
さらに吐けばまた通電させられるという地獄のような毎日。
序列は何かあるたびに変わっていく。
昨日まで散々虐待されていたのに今日になって飯を与えられるようになったり。
まさに飴と鞭の繰り返し。
こうなると松永太のオモチャである。
そして邪魔になれば家族に殺す様に仕向ける。
松永太は決して「殺せ」という直接的な表現は使わない。
「警察にバレたら俺が迷惑する。どう責任をとる?」などと暗にほのめかしたりして家族に殺す様に仕向けていくのだ。
そして死んだらすぐに解体の指示をし解体させる。
方法はミキサーで砕いた後に鍋で煮込んでペットボトルに入れトイレなどに捨てるというもの。
松永太以外の家族全員で解体作業を行う。
決して松永太は直接手を下すことはない。
こうして次々と緒方純子の家族は一人また一人と減っていく…
人間の皮を被った悪魔か?
娘の脱走によってようやくこの事件は明るみに出た。
松永太と緒方純子は捕まり、松永太は死刑、緒方純子は無期懲役になる。
(緒方純子は当初は死刑だったが、松永太のDVにより判断能力が欠如していたと減刑になった)
そして驚くべきことに法廷でも松永太は自分のやったことは否定し徹底的に自分を正当化している。
時には法廷が寄席と化して彼の話で笑い声まで出たというから驚きだ。
「それぞれの死亡に私が関与した事実はありません」
よく言えたな…
裁判官に今の気持ちを聞かれると、
「哀悼の意を表しますが自分が住む場所で殺害され、大変迷惑しています!」と言い放つ。
「私の解体方法はオリジナルです。魚料理の本を読んで応用し、つくだ煮を作る要領でやりました」と自慢げに法廷で語る松永太。
彼は人間の皮を被った悪魔か?
いや、残念ながら彼は我々と同じ人間である。
いっそのこと悪魔であれば諦めもつくが…
なんとも言えない気持ちになった事件でした。
大体の概要はいま説明した通りだが詳しく知りたい方は是非とも本書を手にとってみてほしい。
こんな事件が日本で起きていたなんて…と衝撃を受けることだろう。
また作者の非常に細かい取材には頭が上がる思いだ。
コメント
作者の豊田正義さん、まさに「正義」の名に恥じないですね。